もしも学園生活 その4



10月後半。


文化祭を終えた学校は暫くの間活気が失われていたが徐々に元の活気が戻りつつあった今日この頃。
一部の生徒はある目標に向けて文化祭に負けない活気で溢れていた。



ルイ
「キュピル君。いよいよ明日だね!剣道の県大会!」
キュピル
「あぁ、絶対に優勝してやるぞぉーーー!」

キュピルが竹刀を高く上げ意気込みを見せる。
が、ちょっとした違和感に気付きルイに問う。

キュピル
「あれ、普通に返事しちまったけどルイが道場に来るなんて珍しいな。」
ルイ
「キュピル君が剣道している所。考えてみたら全然見た事なかったから。普段どんな練習しているのか見てみたくなって。」
キュピル
「おいおい、オカルト部はいいのか?」
ルイ
「今日はいいの。」

呆気に取られるキュピル。
そのだらけた顔をみた輝月が即座に竹刀を振りかざしキュピルの頭を叩く。

キュピル
「いでぇっ!!」
輝月
「お主、今は剣道に集中せい!」
キュピル
「俺まだ面つけてなかったんだぞ・・くそぉ・・。」


ルイが苦笑する。
即座に防具を身に着け輝月と模擬戦を繰り広げる。

琶月
「明日は県大会だー!師匠と一緒に一位になるぞー!」
キュピル
「一位は一人しかなれねーから。」

輝月
「面!!」

キュピル
「ぐぇっ!!」





・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



ヘル
「キュピル、明日の剣道の県大会。どうだ?勝てそうか?」
キュピル
「勿論、やってやりますよ!」
ヘル
「よし、いい意気込みだ。」

笑顔を見せるキュピル。だがヘルは何故か少し重たい表情をしている。

キュピル
「・・・?ヘル先輩どうしたんですか?」
ヘル
「・・・実はな、キュピル。明日の県大会が終わったら剣道をやめる事になっているんだ。」
キュピル
「え!!?」
ヘル
「俺も何だかんだで進学の事考えなくちゃいけなくてな。もう半年もないから今回の大会ですっぱり剣道とは縁を切る事にしたんだ。」
キュピル
「・・・そうなんですか。」

始めてヘルと会った時は本当に変な人だと思っていたが、ちゃんとヘルも普通の人間だと思ったキュピル。
いつか俺も三年生になったら進学先やら退部やら考えなければいけないのだろうか。

キュピル
「何だか寂しいな。」
ヘル
「ははっ、最後の俺の剣道見届けてくれよ。」
キュピル
「勿論ですよ!」
ヘル
「ちなみに来月から剣道の変わりにリフティングやる事になったからそっちもよろしく。」

キュピル
「やっぱりお前人間じゃねーよ。」


ファン
「あぁ、キュピルさん。こちらにいらっしゃいましたか。」
キュピル
「あれ?ファン?」

ヘルの道場でまだ稽古を続けていたある時。ファンが道場の中に入りキュピルに話しかけてきた。

キュピル
「珍しい、ファンがここに来るなんて。」
ファン
「大事な話を言いそびれたものでして。明日なんです。科学コンクールの大会。」
キュピル
「なっ!?唐突すぎるだろ!?」

ファン
「本当に申し訳ございません。参加できますか?」
キュピル
「ちょ、ちょっと待ってくれよ・・。明日俺県大会なの知ってるだろ!?」
ファン
「剣道の県大会は午前で終わり、科学コンクールは午後から始まります。」

ファンがしおりをキュピルに見せる。
・・・一応県大会が終わって一時間後に科学コンクールが始まるようだが・・。
しかし二つの会場は離れており移動するのに一時間半程かかる。これではどのみち間に合わない。

キュピル
「どうしよう・・・これじゃ間に合わないぞ・・・。」
ヘル
「俺に良い案があるぞ、キュピル。」
キュピル
「本当ですか!!?」
ヘル
「負ければいい。」
キュピル
「滅!!!。」






・・・・。


・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





審判
「試合始め!!」



キュピル
「うおぉぉっ!!」


キュピルが大きく前進し猛撃を繰り広げる。とても剣道とは思えない戦いだが一応善戦している。

ルイ
「頑張ってー!キュピル君ー!!」

メガホンを持って観客席からキュピルの事を応援するルイ。
広い館の中央で四組の試合が同時に行われている。

キュー
「キュピル先輩そんな相手早くやっつけちゃえー!!」
ルイ
「(キュー・・・。)」

ルイの隣の席で金ぴかのボンボンを持ってキュピルの応援をするキュー。
その姿はさながらチアガール。

キュピル
「とぉっ!!」


相手側に生まれた一瞬の隙を突いてキュピルが面を決める。
相手の頭が叩かれた瞬間、三人の審判が一斉に白の旗をあげる。

審判
「一本!!勝者、白!!」
キュピル
「いよしっ!!」

ルイ
「わぁっ!!やった!!」
キュー
「流石キュピルせんぱーい!!」
ルイ
「(・・・うぅん・・。)」

ルイがキューに対して不快感を覚える中、後ろに座っていたマキシミンがぼそりと呟く。

マキシミン
「ちぇっ、あいつばっかり羨ましいな・・・。
んで、これがトーナメント表なんだがヘルも輝月もキュピルも順当に勝ち進んで行けばキュピルとヘルが三回戦で当たるな。
勝った方は決勝で輝月と戦う。」
ルイ
「あれ・・・。これ男女別々じゃないんですね・・。」
マキシミン
「いや、別々だぞ。」
ルイ
「・・・え・・?あれ?輝月さんって・・・。」
マキシミン
「言っておくがあいつは確かに女みたいだがヘルと決着をつけるとか言って無理やり男枠に入ってたぞ。
ま、体格の差とかはあの試合見ればどうってことないのがすぐ分るだろ。」

マキシミンが指差した場所に試合を行っている輝月の姿があった。
ルイとキューがちょうど目を向けた時、輝月が敵の攻撃を華麗に回避し面を繰り出して一本取っていた。
男女の差・・・どころかむしろ輝月の方は全て上回っている。



一方ヘルは・・・。



ヘル
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

対戦者
「ひぃっ!」

凄まじい勢いでヘルが突撃し敵の持っている竹刀を叩き落とした。二回連続で竹刀を両手から離してしまった対戦者は失格となりヘルの勝利で終わった。
続いて二回戦も試合が始まった瞬間敵の竹刀を叩き割るという荒技を見せヘルの特別勝利に終わった。

キュピル
「いや、剣道の試合としてどうなんだ、これ。」







キュピルも二回戦を勝ちとり三回戦目を迎える。


マキシミン
「いよいよヘルとキュピルの戦いが始まるな。」
キュー
「ふれー!ふれー!キューピール先輩!」
マキシミン
「語呂わりぃ・・。」



審判
「これより、両者の試合を始める。」

キュピルとヘルが一歩前に出る。

ヘル
「キュピル。お前には剣道の奥義全てを教えた。今となっては大事な弟子だ。だが手加減はしない。」
キュピル
「奥義巻き上げと叩き割り(注:そんな技ありません)しか教えて貰っていないのですが。」

審判
「試合始め!!」

試合が始まった瞬間、ヘルが凄まじい勢いで突撃し目にもとまらぬ速さでキュピルの竹刀を思いっきり叩いた。
回避しようとしたのだがあまりの速さに避ける事が出来ず反撃が上手く行かなかった。

キュピル
「うおっ!」

凄まじい力で竹刀を叩かれ腕が下に下がる。下がった腕を上に上げようとした時。
ヘルがキュピルの竹刀を梃子の原理を利用して竹刀を巻き上げ、キュピルの手から弾き飛ばした。

キュピル
「うわっ、しまった!」

審判が旗を両方あげ一時中断の合図をする。
手から離してしまったが一回目ならまだ問題ない。今度こそ技を決めてやる。
竹刀を拾い直しもう一度向き直る。

審判
「始め!」

試合が再開した。今度はこっちが気迫で押し返す!

キュピル
「うおおおおおお!!!」

ヘル
「甘い、甘いぞキュピル!!」


キュピルを更に上回る凄まじい叫び声を上げながらヘルが突撃する。
あまりの声の大きさに観客席全員がヘルの方へ顔を向ける。

マキシミン
「何やってんだあいつ等・・・。」

あまりの気迫に再びキュピルが怯む。その隙を疲れてヘルがキュピルの竹刀を力任せに叩きまくりキュピルの竹刀を折ってしまった。

キュピル
「あっ!」
審判
「試合続行不能!」

審判が旗を上げる。
審判一人がキュピルに近づく。

審判
「予備の竹刀はありますか?」
キュピル
「あります。」

竹刀が折れただけでは敗北にはならない。勿論その事は事前に調査していたしヘルが折ってくる事も予測していた。
一旦バックスペースに戻り予備の竹刀を取ろうとしたのだが・・・。

キュピル
「あれ?ない、ないぞ!!?」

いくら探しても予備の竹刀が見つからない。
しばらくして物影に隠れていた竹刀入れを発見する。

キュピル
「お、見つけた。よかったよかった。」

竹刀入れから予備の竹刀を取り出す。・・・・が、何故か真ん中からぽっきり折れている。

審判
「予備の竹刀がないため試合続行不能と判断します。勝者ヘル!!」

ヘル
「誰だ!キュピルの予備の竹刀まで折ったのは!!」

キュピル
「てめぇだろ!!」


ヘル
「人聞きの悪い事を言うなキュピル。だが俺の勝ちだ。残念だったな。」

キュピル
「本当に残念だよ!!ってか謝れよ!」

ヘル
「おいおい!何故俺が犯人だと思う!不慮の事故で元々折れていたのかもしれないぞ。」
キュピル
「・・・まぁ、確かにそうなんだけどさ・・。・・・ごめん、凄い納得いかなくて怒っちまった。」
ヘル
「いいんだ。俺でもそんな状況が起きれば怒る。」
キュピル
「ごめん。ともかく勝利おめでとう。」

キュピルとヘルが握手する。
二人がバックスペースへ戻っている途中、ヘルが突如道を変え第三コートの近くへ移動する。

キュピル
「ん?ヘル先輩何処へ行くんですか?」
ヘル
「次の対戦者の予備の竹刀折ってくる。
うおりゃああぁぁぁっっっっ!!(ボキッ!」
キュピル
「死ね。」








不満たらたらな表情で観客席へ戻るキュピル。

ルイ
「お疲れ様、キュピル君。・・・ちょっと災難だったn・・・。」
キュー
「キュピル先輩お疲れ様でーす!あ、ここにジュースとかありますから。自由に取って飲んでください!」
ルイ
「あっ・・・。」

ルイの言葉を遮ってキューが前に出てキュピルに缶ジュースを渡す。

キュピル
「ん、ありがとう。キュー。」
マキシミン
「その缶ジュース俺にもよこせよ。」

キュピル
「おい、これ俺のジュースだよ・・やめろ、取るな。
おい!」

勝手にマキシミンが缶ジュースを一本奪い、開けて一気飲みする。
キュピルがマキシミンのお腹を蹴飛ばし、口からジュースを吹きだしキュピルの服にかかる。

キュピル
「うわっ、汚ね!!」

マキシミン
「人を殴った天罰だな。」

もう一度キュピルがマキシミンの腹を蹴飛ばす。





四回戦が始まった。
輝月は即座に敵から一本取り勝利を収める。

キュピル
「輝月先輩かっけぇー!!」
輝月
「ふっ。」

キュピルの声援に答え、軽く手をあげる輝月。
一方ヘルは・・。

ヘル
「んどりゃあぁぁぁっっ!!」
対戦者
「おぅふっ!」

ヘルが敵の竹刀を二回手から離させ無理やり勝利をもぎ取る。


キュピル
「あいつスポーツ間違えてるぞ。」


キュピルがずっと試合を観戦しつづけていたある時。ルイがふと何かを思い出しキュピルに話しかける。

ルイ
「あ、キュピル君。」
キュピル
「ん?」
ルイ
「ファンさんの科学コンクールにそろそろ行ったほうがいいんじゃないかな?
負けたのは残念だったけどもう帰ってもいいんだったらコンクール会場に行ってきたらどう?」

キュピルがハッと思いだした表情を浮かべ即座に荷物をまとめ始めた。

キュピル
「そうだ!!ありがとうルイ!すっかり忘れてた!」
ルイ
「それはそれでどうなの・・・。」

キュピル
「んじゃな!ルイ!キュー!フレッシュブラウン!」
マキシミン
「ぶっ殺す。」


マキシミンがキュピルに攻撃しようと後を追うが追いつけず、キュピルはそのまま自転車に乗ってその場を後にしてしまった。

キュー
「あーあー、キュピル先輩がもう居ないんだったら帰ろうーっと。」
ルイ
「(まぁ確かに居る意味はなさそうね・・・。)」
マキシミン
「ちっ、暇になるな。帰る。」



・・・・。

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一方その頃・・・。



輝月
「ぬぅっ!?どういうことじゃ!?竹刀が全部折れてるではないか!!」
琶月
「師匠!ここに私の予備の竹刀が・・・って、あああああ!!これも折れてるーー!!何で!!?」


ヘルが不戦勝し県大会で謎の一位をもぎ取っていた。





・・・・・。


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ファン
「これが私達の発明した液体です。」
キュピル
「えーっと、これは有機・・・化合・・ちがう、えっと・・・くそ、読み方分らね・・・。えーっと・・。
・・・とにかく何でも溶かす液体なんです!!」

科学コンクールにてキュピルとファンは何でも溶かす液体を披露するが、例によってビーカーには穴が開いており
ここに持ち込む事が出来なかった。が、ファンが機材事大会に持ち込んでいたため本番中に液体を開発し目の前で何でも溶かす液体を披露するという荒技をやってのける。
キュピルの駄目駄目な紹介でもその素晴らしさは十分に伝わり、見事技術部で一位を獲得した。
なお、遠い未来でこれが軍事利用されるとは二人は夢にまで思わなかったがそれは今回の話とは全くの無関係である。








・・・・・。



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長いようで短かった10月が終わった。
沢山の行事が詰め込まれた二学期もその主要な行事は全て終わってしまった。
淡々とした一日を繰り返し過ごし続ける。

生い茂っていた木々は徐々に葉を落とし、気温も急激に冷え込み出す。



そしてキュピル達は12月を迎えた。




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ルイ
「キューピールー君!!」

いつも通りルイがキュピルの自宅の前で待ち構えている。
キュピルも呼びかけに応えすぐに家から出てきた。

ルイ
「おはよう。」
キュピル
「おはよう。・・・うわ、雪降ってる!」
ルイ
「今日は朝から氷点下なんだって。凄い寒いから風邪引かないようにね。」
キュピル
「へへっ、何とかは風邪引かないっていうだろ?俺はぜってー風邪引かないから。」
ルイ
「馬鹿は風邪引かないって言うけどあれは馬鹿だから風邪引いた事にすら気付かないって意味なの。わかる?」
キュピル
「ふーん・・・。ま、俺はそこまで馬鹿じゃねーけどさ。うぇっくしょん!!・・・お?」
ルイ
「・・・・・・・・。」







・・・・・。

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ティル
「38.5℃。完全に黒。」

常勤の保健室の先生が熱さましシートの箱を取り出す。

キュピル
「えー・・おっかしいなぁ・・。ティル先生、そんな辛いって感じしないんだけど・・・。」
ルイ
「馬鹿・・・本当に馬鹿・・。」

ティル
「馬鹿が風邪に気付かなかったから常識人が貴方の風邪に気付いてあげたの。気だるかったりはしないの?」
キュピル
「ちょっと確かにだるいけどただの疲れだと思ってた。」
ルイ
「救いようのない馬鹿・・・。」

キュピル
「このっ、さっきから馬鹿馬鹿って・・・うわっ・・・。」

キュピルが立ち上がりルイの髪飾りをまた奪おうとしたら体勢を崩し倒れそうになった。
すぐにルイがキュピルの腕を引っ張って支え、ソファーの上に座らせる。

ルイ
「どうみても風邪!どうせお腹出して寝てたんでしょ。」
キュピル
「なっ!どうして分った!?ルイ、さては覗き見を!?」

ルイ
「滅!!!」







・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。


ティル
「今日家に誰かいる?」
キュピル
「居ない。」

冷えぴたシートを額に張り、同時にタンコブを冷やしながらカーテンで隠れた先にあるベッドの上で横たわっているキュピル。
ルイは授業が始まったのでここには居ない。

ティル
「ご両親は出勤中?」
キュピル
「出勤中。」
ティル
「お忙しいのね。迎えに来させて貴方を家に帰らせたいんだけれど何時も何時頃にご帰宅してる?」
キュピル
「今日は帰って来ない。今ずっと海外に居るから。」
ティル
「そう。」

電話をかけようと受話器を持ち続けていたティル先生だったが、誰も宛がいないと悟ったのか受話器を置いた。

ティル
「それならちょっと楽になるまでそこで寝てて楽になったら自分の足で帰りなさい。担任の先生にはお伝えしておくから。」
キュピル
「・・・どうも。」

ベッドの中に深く潜り込み熟睡する体勢に入る。せっかく授業をさぼる口実を手にしたのだから今日は一日寝て適当に帰る事にする。


・・・・。

ただ妙に眠れない。
いつもならベッドの上で横になればすぐ熟睡してしまうキュピルだったが久しぶりに両親の話しが出たせいか昔の思い出が頭の中でぐるぐると、何回も再生される。

キュピル
「(・・・何時になったら寝れる。)」

寝たいと思っている時に寝れない時程不快な時間はない。
頭の中から昔の思い出を放り出し近くなった冬休みで何して遊ぶか考える事にする。

しばらくして段々と眠なり、そのまま深い眠りへとついた。





・・・・。


・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







どのくらい眠っただろうか。
一旦上体を起こす。

・・・・今朝よりもかなり身体がだるい。
感覚的に熱もかなり上がっているのが分る。

キュピル
「だ、だる・・・・。」

ベッドから起き上がりカーテンを開ける。
窓の先はもう暗くなっており、驚いた事に校庭は雪が積もっていた。

キュピル
「・・・すげ。」

時刻は午後五時半。八時間近く眠っていた事になる。

ティル
「おはよう。朝からずっと寝てたってことは本当に体調悪いようね。」
キュピル
「今は結構だるい。」

普段のキュピルとは思えない程の小さな声で呟く。
ティル先生が体温計をキュピルに差し出し熱を測らせる。

・・・・。

アラームが鳴り脇に挟んでいた体温計を取り出す。それをティル先生に見せる。

ティル
「・・・39.4℃。熱上がっちゃったわね。」
ルイ
「先生、来ましたよ・・・あ。起きたんだ。」
キュピル
「ん・・。」

ルイが保健室の扉を開けて入ってきた。

ティル
「ルイさん、彼ちょっと凄い熱高くなってて一人じゃ帰れそうにないから自宅まで送ってあげてくれないかしら。
一応幼馴染って聞いてるから家の場所が分ると思って。」
ルイ
「そのつもりでしたから。ほら、キュピル。手か肩貸してあげるから帰るよ。」
キュピル
「おぶってくれよ。」
ルイ
「冗談言う元気あるなら先に帰る。」

キュピル
「いや、真面目なんだが。」

ルイ
「そんなにおぶってほしいなら・・・。」



・・・・・。




マキシミン
「何で俺がこいつをおぶってやらねーといけねぇんだよ・・・。」
キュピル
「こいつにおぶわれたくねぇ・・・。」

ルイ
「文句言わないの。」

ルイが先導しマキシミンにキュピルの自宅の位置を教える。
道路は歩けば足跡が残る程度に積もっている。
マキシミンがキュピルを背負っているためいつもより歩行速度は落ちているが学校を出て30分後にキュピルの自宅へ辿りついた。

マキシミン
「やっとついたか。おい、降りろ。」
キュピル
「あぁ・・。」

マキシミンがキュピルを降ろし、自分の荷物を背負う。

マキシミン
「お前本当電車通学じゃなくてよかったな。俺も電車じゃないけどよ。」
ルイ
「マキシミン、一応ありがとうね。」

ルイが押していたマキシミンの自転車を返す。マキシミンは自転車通学のようだ。

マキシミン
「んじゃな、お前風邪治ったら俺にジュース奢れよ。」
キュピル
「風邪で良く聞こえねぇ。」
マキシミン
「治ったら奢ってもらうまで何度も言ってやる。」

そういうとマキシミンは自転車に乗ってさっき通った道へ戻って言った。
T字路の曲がり角を曲がろうとした瞬間、雪で自転車のタイヤが滑り派手に転倒する。

マキシミン
「いってぇぇぇっ・・・。キュピル!!お前治ったら治療代も出せ!!」
キュピル
「いや、それは理不尽だろ。」


条件反射でキュピルが突っ込みを入れるが声に元気がない。
キュピルが荷物を持ち自宅の玄関の扉を開けて入る。

キュピル
「ルイ、一応ありがとう。」
ルイ
「一応は余計。ところで夜ご飯とかは・・・用意出来る訳ないよね。実質今一人暮らしだし。」

ルイもキュピルの家へ入り自分の荷物を玄関に置く。

キュピル
「ん?」
ルイ
「夜ご飯だけ作ってあげる。」
キュピル
「作れるからいい、風邪うつるぞ。」

が、キュピルの言葉を無視して家へ上がり台所へと移動する。
しばらくしてルイの声が聞こえた。

ルイ
「キュピル君は自分の部屋で寝てて。出来たら持ってきてあげるから。」
キュピル
「いや、ほんとにいいよ。」

おぼつかない足取りで台所へ行くキュピル。ルイがちょうど冷蔵庫を開けた所だった。

ルイ
「えっ、なにこれ!?ジュースと冷凍食品だけ!?」
キュピル
「調理するようなものはないから。全部電子レンジ。」

冷蔵庫の上にはインスタント食品が並んでおりいかにキュピルが不規則な食生活をしているか分る。

ルイ
「・・・・だめだよ、キュピル!こんな食生活を続けてたら体の抵抗が落ちて風邪引くのも当然よ!」
キュピル
「料理できねーし、メンドイし。」

キュピルが湯沸かし器に水を注ぎ沸かし始める。
その様子を見てルイがますます悲しそうな表情を見せる。

ルイ
「・・・わかった・・。・・・それじゃ今日は・・もう帰るね。」
キュピル
「うん、心配してくれてありがとう。」

ルイが台所から去る。
玄関の扉が開く音が聞こえる。

ルイ
「ちゃんと休んでなさいよ。」
キュピル
「ちゃんと休む。」
ルイ
「そう、それでいいの。」

扉の閉まる音。帰ったようだ。
・・・お湯が沸いたが今カップ麺を食う気がしない。ルイがいたからお湯を沸かしたって感じだ。
二階へ上り自分の部屋に入ると制服のままベッドに潜りこみまた熟睡モードへと入っていった。



・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



翌朝。この日も雪は降っており昨日と比べてかなり積もっていた。
夜中の間に沢山降ったようだ。

キュピル
「・・・・寒っ・・。」

と、同時に空腹感。
あぁ、そういえば昨日の夜何も食べなかったからなーっと思いだしつつ重たい足取りで一階へと降りる。
一階へ降りると台所と居間の明りがついていることに気付いた。

・・・?昨日ちゃんと電気は切ったと思ったのだが・・・。
居間を覗くと何故かマキシミン、ヘル、輝月、琶月がテレビの前で固まっており何かしている。

マキシミン
「はぁー!?強キャラ使用とか死ねよ!」
琶月
「私のお気に入りキャラが全部強なだけなんです!」
ヘル
「パワーこそ全て。」
輝月
「スピードこそ(ry」
キュピル
「・・・・お前等俺の家で何やってんだよ。住居不法侵入で訴えるぞ


キュピルが起きた事に皆が気付くと全員してすぐに「台所行け、台所」と叫んだ。
不満を持ちつつも台所の方に足を運ぶとそこにはルイが居た。

ルイ
「あ、おはよう。どう?熱下がった?」
キュピル
「待て・・。その前に何で皆居るんだ。」
ルイ
「今日は土曜日だよ?」
キュピル
「それは分ってる。だから何で皆俺の家にいるんだ。」
ルイ
「あー・・、昨日ね。キュピル君の凄いお粗末な食事を見てスーパーからちゃんとした食材買って作ってあげようと思ったの。
で、買ってキュピル君の家に向かってる途中偶然マキシミンに会って・・。目的教えたら何故かこんな事に。」
キュピル
「どうやって俺の家に入ったんだ・・。」
ルイ
「昨日キュピル君玄関の鍵閉めてなかったでしょ。」
キュピル
「あ・・・・。」

・・・そういえば昨日ルイが帰った後そのまま自分の部屋に戻って寝てしまっていた事を思い出す。
・・・泥棒が入って来なくてよかった。いや、現在進行形でいるのか?

ルイ
「鍵閉まっててもキュピル君起こして作る予定だったけど。」

ルイがお玉を手に持ち鍋に入っているスープを掬って味を確かめる。

ルイ
「うん、いい感じ。ご飯出来たら呼ぶから待ってて。」
キュピル
「・・・ありがとう。」


キュピルが台所から出てもう一度居間に戻る。

マキシミン
「おっしゃぁぁっっっ!!弱キャラで強キャラに勝った!!」
琶月
「あああああああああ!!!」
キュピル
「・・・で、お前等は何しにここに来た?」
輝月&ヘル
「剣道の稽古。」
琶月
「ゲームしに・・。」
マキシミン
「物漁り。」
キュピル
「帰れ。」







・・・・。



・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。








数日後。ルイの作った栄養満点の料理が効いたのかすぐに回復し登校出来るようになっていた。


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